ドリーム小説

、悪いんだけど、旦那起こしてきてくれない?」




早起きして屋敷に入ると颯爽と現れた佐助にそう言われ、うんともすんとも返事をする前に

一方的に話すだけ話して消えてしまった。

忍である佐助が一瞬で消えてしまった以上、少し鍛えてるとはいえが追いかけても追いつくはずがない。

何やら面倒な仕事を押し付けられたような気がしては溜め息を吐いて、元主君である真田幸村の部屋に向った。

普段は以上に早起きの幸村は、が屋敷を訪れるとすでに鍛錬をしているか、

武田名物「殴り愛」をお館様こと武田信玄公としているかのどちらかである。

多少、心配もあったので素直に部屋に足を運んでみたものの、部屋から返事が返ってこない。

起こせ、と佐助に言われたのだから、まだ寝てるのだろうと納得し、は一言謝って部屋に入った。

あまり部屋に篭ることのない幸村だからなのか、世話焼きの佐助がいるからか、

部屋の中は案外綺麗に整頓されていて何だかつまらない気がした。

部屋の主人が寝ているのに部屋を勝手に観察するのは不躾だと思い、

豪快な寝相で寝ている幸村の布団の側に腰を降ろした。




「幸村さん。幸村さん。起きて下さい」




の声にピクリとも反応しない幸村に困ったようには息を吐いた。

揺すっても、大声を出しても起きる気配が全くない。

どうしようか、と悩むに先程佐助が言い残していった言葉が蘇る。




『旦那はねぇ、熟睡してる時はホンットに何しても起きないからさぁ』

『じゃあ私が行っても無駄じゃない』

『大丈夫。なら旦那絶対飛び起きるから』

『何の根拠なの、それ』

『それでも起きない時はこの三つ試してみて。まずは・・・』




これ以上起こす術が見付からないは、悩んだ末に言われた通りやってみる事にした。

気持ち良さそうに寝ている幸村を見ていると少々ムカっときたからだ。




「まずは布団を引っぺがす!」




えいっと掛け布団を剥がしてみるもの、やはりピクリともしない。

ムスっとしたままは次の作戦に移る。




「起きない幸村さんが悪い。次に飛び乗る!」

うぐっ・・




ぴょーんとお腹に飛び乗ると流石に苦しかったのか、声を漏らしたのではハッと見たが

苦しい表情はしてるものの、意識はないようだった。

だんだん佐助の言葉が信用ならなくなってきたは、自棄になって最後の手段に出た。




「寒くても、痛くても起きないんじゃこんなので絶対起きないと思うんだけど・・・。

 手を握って息を吹きかけるように耳元で囁く、だったっけ?」




布団の上に放り出されている手を握り、上から覗き込むように耳元に近付いた。




起 き て 、幸 村 さ ん




くすぐられる様な感覚にヒクリと目蓋を動かして、幸村はうっすら目を開けた。

それに気を良くしたは嬉しそうに笑った。




殿・・・?」

「はい」




幸村はボーっとしたまま暖かい手に視線をやった。

の小さく柔らかい手が自分のゴツゴツした手と繋がっているのが見えた。

再び自分を覗き込むようにしているに視線をやって幸村は笑った。




「そうか、夢か・・」

「え?」

殿が某にこの様な・・・」




何がおかしいのか楽しそうに笑った幸村は不意に力強く握られているの手を引いた。

それに抵抗できず、バランスを崩したは気付けば幸村の腕の中だった。

腕枕されるような形で抱き締められて流石のも慌てた。




「寝ぼけてないで起きて下さい、幸村さーん!」




の叫びも空しく、手はがっちりと掴まれているし、の腕力じゃどうにもなりそうになかった。

追い討ちをかけるように耳元で再び寝息が聞こえては諦めて幸せそうに眠る幸村に苦笑した。

幸村の体温にの目蓋もだんだんと重くなり、部屋に小さな寝息が一つ増えた。






***





「全く。帰ってこないと思ったら・・・」




仲良く一緒に手まで繋いで寝ていると幸村に、様子を見に来た佐助は呆れた。

面白半分でを起こしにやったのだが、まさかこんな事になるとは思ってもいなかった。

幸せそうな寝顔の幸村の枕元にしゃがみ込み、鼻と口を塞いでやると見る見るうちに苦しそうな表情に変わった。

苦しさでジタバタし始めた幸村がようやく目を開けると、佐助は笑顔でおはよう、と言った。




「佐助!某を殺す気か!」

「旦那が起きないのが悪いんでしょー?大事そうに抱いちゃってまぁ」

「抱く・・・?」




幸村は腕に乗る暖かい物に気付いて首を動かすと、そこには誰かが乗っていてピシリと固まった。

佐助は次の行動を予測して手でピタリと耳を塞いだ。

この世のものとは思えない程の情けない悲鳴を上げた幸村には目を覚ました。

真っ赤になって声を失っている幸村にはとりあえずへにゃりと笑った。

完全にの頭は働いていない。




ギャー!!!殿ー?!

「うわっ」




飛び起きた幸村に弾き飛ばされたは座り込んだが、すぐに引っ張られるように崩れた。

その時になって幸村は自分がの手を握っている事に気付いて慌てて手を振り解いた。

捨てられた様に離された手をは目を瞬いて見下ろし、幸村は乱暴に手を離したことにうろたえた。




「申し訳御座いませぬ!!もしや怪我など?!」

「え?そんな事は・・」




再び掴まれた手には呆然と目の前であたふたしてる幸村を見た。

の手を大事そうに握って混乱している幸村が何だかおかしくて笑いが込み上がる。

それに気付いた幸村は笑うにただ見惚れていた。




あのさー。一応、俺様いるんだけど




手を取り合って座り込む幸村との前にジト目で見てくる佐助がいた。

それに悲鳴を上げた幸村は再びの手を投げ捨てて飛び上がった。

その時になってはふと幸村の髪が気になった。

どう見ても寝癖なのだが、ひどいくらいあちこちはねている。

手を伸ばして何度も指を通してみるが一向に直りそうにない。

が悔しそうに幸村の髪に指を通している間、当の本人はピシリと固まってしまった。




「水がいりますね。あとで私が直していいですか?」

「お嬢、お嬢。これ以上、旦那に刺激を与えてやらないでちょーだい」

「え?」

は・・っ破廉恥ですいませぬぅぅぅ!!

「はい?!」




急に頭を下げた幸村にはビックリしたが、ゆっくりしてる間もなく佐助に背を押されて部屋から追い出された。

部屋を出る直前にはまだ幸村に言ってない事を思い出して廊下から顔を出した。




「幸村さん。おはようございます」




その笑顔に幸村が臨界点を突破し、鼻から血を噴いたのはそこにいた忍しか知らない。


* ひとやすみ *
   ・BSRアニメ化記念作品!
    甘くなれー甘くなれーとこれでも頑張ったんですが微糖でしたか・・。
    とにもかくにも!拍手有難く頂戴いたします!(拍手お礼作品)         (09/04/15)