ドリーム小説

俺が山本武に出会ったのは、まだ並中風紀委員長の頃だった。

長ランにも慣れた見回り途中の秋の夕暮れだったと今でも覚えている。

あの日もなぜだかガラの悪い兄ちゃん達に絡まれ、遅くなったのだ。

何で俺が歩くといつも怖いのに絡まれるんだろう・・・?

そんな事を思いつつ草壁に直帰することを電話で伝えていた時にそれを見付けた。

まもなく日が沈む土手沿いにパシッと規則的に何かの音がしている。

気になって降りてみると小学生くらいの男の子が壁に向かって野球ボールを投げて遊んでいた。

おぉ、結構な球速だなー・・・、じゃなくて!

こんな所で子供が一人は危ないだろ。

もうそろそろ暗くなるし。

そう思った直後に少年が取り逃したボールが俺の顔面に向かって飛んで来て死ぬほど驚いた。

間一髪、掌で受け止めると少年が振り返って目を瞬かせる。




「うわ!すいません!」

「もう遅い。家に帰った方がいい」




心臓のドキドキを隠すようにそう言って、少年にボールを手渡すと何か違和感を感じた。

薄暗かったから気付かなかったけど、俺、こいつに会ったことなかったか?

ジーっと見ている俺に少し寂しそうに返事をした少年はゆっくりと惜しむように片付けを始めた。

その様子が気になってよくよく見ていると少年はなぜかグローブを2つ持っていた。

っていうかあれはどう見ても大人用だよな・・・?




「何かあったのか?」

「え?」

「そのグローブ」




少年は腕の中に視線を落とすと、あからさまにテンションを落として苦笑した。

その顔があまりに大人びていて驚いた。




「ホントは今日親父とキャッチボールの約束してたんだけど、店が忙しくて来れなかったみたいなんだ」




仕方ないと笑うその顔があまりに寂しそうで何だか見ていられなかった。

ここで親父さんを待ってたのか。

こんな所で独りで壁に向かってボール投げて・・・。

川の向こうに見えるお日様はしぶとく顔を出していて、沈むまでもう少し時間がありそうだ。




「弟とキャッチボールしてみたいんだが、教えてくれないか?」

「え?」

「日が沈むまでの少しだけだ」

「あぁ!俺、武!兄ちゃんは?」

だ」




俺の絶対有り得ないだろう提案に武は満面の笑顔で笑ってグローブを貸してくれた。

恭弥とキャッチボールって想像出来なさ過ぎて怖いよ!







***







そんなこんなで日が暮れて、俺達は竹寿司に向かっている訳ですが。

なんと驚くことに、武はあの山本武だったのです!!

まぁ、キャッチボールしてる間に話していてなんとなく気付いていましたけどね。

どうして俺はこうも突然原作キャラに出会っちゃうかな・・・。

楽しげに隣を歩く武を家まで送り届けると、入ってと袖を引っ張られた。




「ただいまー!!」

「おう!おかえり武・・・って、お前は!!」

「!!」

「何すんだよ親父!!」




一瞬の出来事だった・・・・。

暖簾をくぐり店内を覘き、剛さんと目が合った次の瞬間、

顔の真横で扉に深々と突き刺さる包丁がビヨンビヨンと音を立てていた。

こ、この人、今、包丁投げたよーッ?!




「すまねぇ!その黒い制服見るとつい、な!」

「ったく!さんだったからこそよかったものの・・・」

「ちげぇねえ!」




いやいや!全然よくねーよ!!!

危うく耳削げるとこだったって、何言ってんのこの山本的親子ー!!

剛さんはニコニコ笑って俺の前に寿司を置いた。




「話は聞いた。武と遊んでくれたんだってな。ありがとよ。これは礼だ、食って行ってくれ、君」

「・・・美味い」

「そうだろう!いやー、あれと同じ学ランとは思えねぇな!」

「あれ?」

「後輩にな、総裁とか呼ばれていきがってるのが居てな」




物凄く嫌そうにそう吐き捨てた剛さんの言葉にガックリと顎が落ちた。

そ、そ、総裁?!

それってもしかしなくても父さんじゃ・・・?

人のイイ寿司屋の親父である剛さんにここまで言わせるなんて、一体何したの父さん?!


それから妙に武に懐かれ、数回竹寿司に遊びに行ったが、剛さんはいつもよくしてくれて

最初の殺人未遂が嘘のようだった。

しかし父さんと竹寿司で鉢合わせた時、事態は激変した。

どうやら剛さんは父さんが係わると見境がなくなるらしい。

店の扉を開けた瞬間「溶けてなくなれ、ナメクジ野郎」と罵倒された挙句、遠慮の欠片もなく塩をぶちまけられた。

その後、物凄い謝られたからわざとじゃないらしいが、あれは一種のトラウマものだ。

そんな酷くしょっぱい15の秋の思い出。


* ひとやすみ *
・ある意味、親父大暴走な話。笑
 しょんぼりしてた武少年と遊んであげる心弱き長ラン委員長!
 そんなこんなで竹寿司の常連さんになるまで山本的親子に振り回されるんでしょうね。笑
 オチのない話でしたが、拍手お礼作品に!                             (10/04/01)