ドリーム小説
「見事に全治一ヶ月の大怪我です」
「・・・悪い」
「全くです!お優しいのも結構ですが、周りの被る被害もお考え下さい」
腕を組んで枕元でガミガミ言う執事に俺は頭が上がらない。
また当分、仕事を彼女に押し付ける事になる。
ようやく自分が周りに甘えすぎていたと認識した所なのにホント不甲斐ない。
攫われたティエラを助けに行った俺はどこぞのマフィアにボコられて並盛中央病院の特別個室で入院する事になった。
執事には一ヶ月と言ったが、実際は三ヶ月の怪我だった。
病院長に無理を言って期間を短くしてもらった。
バレたらまたガミガミされるだろうが、何としても早く治して仕事に復帰するつもりだ。
ちなみにティエラは手当てと検査で1日病院にいたが、すぐに退院出来た。
「正一のことだが、」
「問題ありません。かのファミリーは壊滅しました」
「は」
「甘く見られたものです。我々はマフィアほど戦闘能力に長けた団結力の強い組織ではありませんが、
あらゆる分野に長けた幅広い集合体です。あの方が創られた構造をマフィアごときがどうこうしようなどとは片腹痛い」
・・・・・た、大層、ご立腹のようで。
ふん、と鼻を鳴らした執事から視線を逸らして、俺はあの方ならぬ赤の魔女を思った。
一体、どんなもん残してくれたんだよ、レディ・・・!
俺、執事達と数年一緒だけど、そんな大掛かりな集まりだなんて一言も聞いてないぞ!
だって、いつも執事は「様が我々のトップなのですから、お好きなようになさって下さい」って言うからさぁ!
「人員と能力だけ見れば、我々はボンゴレを遥かに上回るというのに馬鹿なことを・・・」
「レディは何を考えてそんな組織を創ったんだ・・・」
「様、正確には組織ではなく計画です。同盟と言ったら分かり易いでしょうか」
「計画?」
「相互の利害の一致があっての繋がりです。例えば、研究結果を貰う代わりに研究費を支援するとか、
系列会社で働く代わりに給与を貰うなどです。加入しているメンバーは世界中にいて、マフィアや科学者、
サラリーマンなど様々です。この計画の核は様ですが、各々目的は違っており能力さえいただければ脱加入は自由。
秘密主義の集合体ですので構成員は不明。さすがに管制担当のティーは知っていますが」
知らなかった方がよかった・・・!!
そんなおっかないの扱ってたのかよ、俺・・・!
一体、どこから膨大な情報や機器に人員、費用が出てるのか不思議だったけど一個人の資産にしては恐ろしすぎる!!
俺を監禁したあの名前も知らないマフィア達は一体何されたんだろ・・・。
ブルリと身体を震わせた俺は話は終わりだと言わんばかりにテレビの電源を入れた。
お昼のワイドショーで現地レポーターが顔色悪く、マイクに向かって何かを叫んでいる。
画面の隅に書かれたLIVEの文字の下に小さく並盛と書かれていることに気付く。
『只今、並盛の臨港に来ています!たった一日で港は瓦礫地帯へと変貌を遂げました!見て下さい!この無残な姿を!
この先で何かが起こっているのは事実です!警察機動隊が現場を封鎖して丸一日が経とうとしています。
あぁ!また、粉塵が上がりました!一体何が起こってるのでしょうか。詳しい情報が入ったらまたお伝えいたします』
・・・・・・・・・・・・・・・。
テレビの中で不安そうな顔をしたアナウンサーやタレントが何やらいろいろ討論しているが、俺はあの場所を知っている。
というか、二日前まであそこにいたんだけど・・・?
今も巻き上がる粉塵って、まさか・・・。
「・・・なぁ、執事。今、恭弥とディーノどうしてるんだ?」
「警察機動隊に囲まれて仲良く喧嘩中のようですね」
やっぱりぃぃぃぃ?!
うわー!!何やってんだよお前ら!!
包帯の巻かれた頭を掻き毟れば、執事は溜め息を吐いて携帯を取り出した。
いやいや、電源切っとけよ。
誰かと幾つか話をした執事は一度通話を切り、もう一度誰かに掛け直して俺をチラリと見た。
「大変です!様の容態が急変して危篤状態です!」
・・・・は?
執事の突然の「俺、危篤」発言にポカンとした俺は思わず自分の身体を触って確かめた。
生きてる、よな、俺・・・?
リアルな一人芝居を披露した執事はいつもの冷静な顔で通話を切っていた。
い、今の何・・・?
「これで万事解決です。全ては熊の責任ということになりましたから」
「・・・なんだそれは」
さっぱり理解出来ないが、どこか満足そうに執事はそう言い切った。
熊?一体何の話だ・・・?
問い質そうとした瞬間、テレビの中のレポーターが大きな声を張り上げ、俺は視線をやった。
『たった今、入って来た情報によりますと、山から下りてきた凶暴な熊二頭が港で大暴れしていたとのことです!』
コ レ かーーー!!
俺の弟達は一体いつから熊になったんだ?!
いとも簡単に出来てしまった情報操作に俺は再び強大な力の存在に恐怖した。
このままでいいのか、大日本帝国?!
何だかドッと疲れた俺は力なく横たわり、目を瞑った。
めちゃくちゃだぜー、何もかも・・・。
その直後、派手に開いた扉から押し合うようにボロボロのディーノと恭弥が飛び込んで来た。
「「 兄さん!! 」」
俺が声を聞いてそろりと目を開けた時には二人は俺にしがみ付いていた。
ぐ、ぐえぇぇぇ!!
ちょ!肋骨、ミシミシ言ってる・・・!!
殺 さ れ る ッ !
「は・・・なれ、ろ、お・・・前らっ」
「兄さん!こんな苦しそうにして・・・!」
「顔色が悪いよ」
お前らのせいだっ・・・!!
俺を放ってどっちの看病がいいかとまた喧嘩し始めた二人に俺はガンガン痛む頭を抱えた。
何なの、お前ら、仲悪いの?!
執事は助ける気はさらさらないようで、見舞いに持ってきた林檎を自分で剥いて食べている。
もう俺、ヤダ・・・。
現実逃避も虚しく、二人がガタガタに剥いたフルーツを俺の口に無理矢理押し付けてきた辺りで限界が来た。
「お前ら、病院立ち入り禁止!」
俺がそう言うや否や、執事は二人の首根っこ掴んで部屋の外に放り出した。
ポカンとする弟二人に執事はニマリと笑って、ウサギ型にくり貫いたちくわを放り投げて一言。
「これでも食べて大人しくしてなさい、坊や達」
ピシャリと閉じた扉に俺はその先どうなったのかは知らない。
ただ、それからマンションの鍵を遠慮なく壊すようになった恭弥と、我が物顔で入り浸るようになったディーノと、
執事の三人の関係が物凄く悪辣なものになったのは事実だ。
* ひとやすみ *
・うから編の後日談です。
並盛の秩序である孤高の熊と、イタリア産の通称跳ね熊の大乱闘でした。笑
ついでにレディが作った仕組みは今、主人公の手足になっている訳ですが
ビックリするほど大掛かりで脆い不思議な力を持った繋がりでした。
この後、弟達の熱心な看病のおかげで結局二ヶ月くらい入院してたんだろうなぁ。笑
拙い話ですが、拍手お礼でしたー!! (10/06/20)