ドリーム小説

スリッパを打ち鳴らして階段を上る。

廊下の窓から見える正門はヒラヒラと舞う桜の花びらで幻想的に見えた。

季節は春。

桜は盛りの時を迎え、ここ並中も艶やかな桃色で彩られている。




「花見か・・・」




うーん。さすがに学校で花見はマズイよなぁ・・・。

明後日なら時間取れるけど、一人で昼間から花見は馬鹿みたいだしな。

今年もお預けかと溜め息を吐くと向かいから声を掛けられた。




「何でここにいるの」




怪訝そうにしながら近付いてくる恭弥に俺は苦笑で返した。

いやさー、俺もやりたかった訳じゃないんだけど、気が付いたら並中の理事会代表になっててさー。

どう考えても恭弥に対抗する手段として担ぎ上げられたんだと思うんだよね。

今日は保護者会とついでに恭弥の面談のために学校へ来た。

三者面談など出来るはずもなく、教師側は一応しなければならない面談をここぞとばかりに俺にぶちまけた。

まぁ、模範的な生徒だと生活指導の先生が褒めてました、の一言で終わったんだけど。




「理事会代表になったからな」

「何でそんなのに・・・。保護者から出てくるのなんて苦情ばかりで役にも立たないよ」

「まぁ、そう言うな。親だって子供と学校のためを思って保護者会を作ってるんだから」

「我儘放題で思い通りにならないと学校のせいにする。それのどこが子供のためなのか僕には分からないけどね」




それを恭弥が恐怖で抑え付けてるんだからどっちもどっちだと思う・・・。

隣を歩く恭弥は時間が惜しいとばかりに持っていたファイルに視線を落としている。

新学期が始まり、運営を取り仕切る恭弥は忙しい。

それは俺も昔やっていたことだからよーく分かる。




「・・・この近くに立派な桜があるんだけど、」




視線をファイルに向けたままそう呟いた恭弥に俺は目を瞬いた。

不自然に言葉を切ってはいたが、続きは言わなくても分かる。

これは花見の誘いだ。

恭弥が花見好きだったのが意外だったし、何より俺を誘ったのに驚いた。




「じゃあ、明後日そこに桜を見に行こう」




俺がそう言うと視線を上げた恭弥は一瞬嬉しそうな顔をすると、視線を逸らして難しい顔を作り「そう」と一言呟いた。

幼い頃から全然変わらない恭弥に小さく吹き出せば、片眉を上げて睨まれた。

そんな顔しても全然怖くないから。







***






丸めたミンチをフライパンに乗せて焼きながらぼんやりと思う。

実は昨夜から恭弥の様子が少しおかしい。

どこがと聞かれると困るし、本人も否定してるので何とも言えないが、どこか変だった。



兄さん、明日の花見・・・、いや、何でもない』



何か言いたそうなのに言葉を切って恭弥は部屋へ戻っていった。

あれは絶対何かある。




「恭弥と花見だって?いいな、僕も入れてよ」

「つまみ食いするなよ。父さんの昼飯はあっち。来てもいいけど恭弥に殴られるぞ?」

「だから面白そうなんだよ」




花見用に弁当を詰めていると父さんの手が弁当に伸びたので容赦なく叩き落してやった。

恭弥をからかうのに命懸けてる父さんに溜め息を吐いて、食べられる前にとさっさと残りを詰めた。

父さんとの攻防を恭弥に見付かればここは戦場になる。

弁当を作り終えると不機嫌そうな恭弥が現れドキリとしたが、父さんには目もくれず早く行くよと俺を急かした。

やっぱどこか変だ。

まさか、無理矢理忙しい仕事を終わらせて体調を崩したとかじゃないだろうな?

恭弥に連れられて家を出るも、俺達の間に会話はなくただ黙々と目的地へと足を進めた。

眉間に皺を寄せて歩く恭弥に首を傾げていると、目の前に爛々と咲き誇る桜が視界に飛び込んで来た。




「すごいな」




隣り合わせた桜の幹が近いのか花と花が重なり合って、空が少しも見えないほど頭上を覆い隠していた。

これほどまでに立派な桜なら他に人がいてもおかしくないのだが、不思議な事に誰もいない。

恭弥に声を掛けようと振り返ると、さっきいた位置から動いてないのか遠く離れた場所に俯いて立っている。




「恭弥・・・?」




様子のおかしい恭弥に首を傾げて近寄っていけば、顔が真っ青で驚いた。

慌てて駆け寄るとフラフラ覚束ない足取りで歩く恭弥が倒れ込んできて何とか抱き止める。

勢いよく倒れてきた恭弥を受け止めて尻餅をついた俺は物凄い汗の恭弥に目を見開いた。




「お前、やっぱ体調悪かったんだな」

「・・・違う。これは桜が、」




違うって言ったってお前、どう見ても体調悪そうだし、全然身体に力入ってねーじゃん。

俺に凭れたままの恭弥を仰向けにさせて、汗で額に張り付いた前髪を払う。

何でお前そんな顔してんの・・・?

心底悔しそうな顔をしている恭弥の顔を覗き込んで、何か引っ掛かりを覚える。

さっきこいつ何て言った?・・・桜が?

そう呟いて俺はハッとした。




「お前、まさか、桜クラ病・・・?!」

兄さん、この妙な病気のこと知ってるの」




えぇー!!一体いつの間にヤラれたんだよー!!

桜クラ病と言えば、原作で花見の時にシャマルが恭弥に使ったトライデント・モスキート。

桜を見ると立ってられない身体になっちゃうんだが、道理で真っ青な顔してるわけだ。

ようやく昨日の態度に納得がいった。

そりゃ自分から桜見に行くの嫌だよな・・・。




「そういう事は早く言え。お前に無理させてまで桜を見たかった訳じゃない」

「・・・でも、学校の桜見て花見って呟いてたでしょ」




俺はその言葉に思わず目を見開いた。

聞いてたのか・・・。

バツの悪そうにする恭弥に困ったように笑って俺は頭上の桜を見上げた。

こんなに綺麗なのに勿体無いなぁ。

桜クラ病、嫌な病気だ。




「桜が見たかったというより、誰かと花を見たり、弁当をつついたりして一緒に時間を過ごしたかっただけだ」




そう。俺はただ、誰かと騒いで春を楽しみたかっただけなんだよな。

だから恭弥が花見に誘ってくれた時はホントに嬉しかった。

でも、恭弥を無理させてまでしたいとはちっとも思わない。

俺は眉根を寄せて恭弥を見下ろした。




「あのな、辛いならそう言え。花見なんて別に桜じゃなくてもいいんだ。俺はタンポポだろうと菜の花だろうと

 お前と楽しく弁当食えたらそれでいいんだから」




僅かに目を細めた恭弥に同意を求めるように笑えば、腕で顔を隠されてしまった。

桜が辛くて目を覆ったのだろうか・・・?

恭弥が「眩しい」と言った気がしたが、桜で陽の光は遮られていたし、すごく小さい声だったので聞き間違いかもしれない。

俺はとりあえず恭弥を起こして肩を貸した。




「帰って庭の花でも見ながら弁当食うか」

「それって花見なの?」

「花見だろ。何か咲いてたか?」

「・・・多分、チューリップ」




俺達は間抜けにも弁当を持って家に帰り、二人で見頃を少し越えた真っ赤なチューリップを見ながら弁当を食べた。

何だかおかしな花見だったが、恭弥が楽しそうだったので良しとする。

4月いっぱい、あちこちで咲き誇る桜に恭弥が辟易するのはまた別の話。


* ひとやすみ *
・原作のお花見後の話だと思われます。
 恭弥根性の花見でしたが、病には勝てず。笑
 兄弟仲良く庭のチューリップ見ながらお弁当食べてるのを想像すると微笑ましい。
 拙い話ですが、拍手お礼作品でした!!                        (10/06/20)