ドリーム小説

「スクアーロ、飲んでるか?」




見頃を迎えた桜の木の前で俺達は酒を片手に、花を愛でながら飲み食いしていた。

そう。俺は今、花見を満喫していた。

恭弥や綱吉達を呼んでもよかったが、今日はのんびりしっぽり大人だけで花ざかりの桜を楽しんでいた。

まぁ恭弥は前に桜クラ病とか発症させてたし、何となく桜の席には呼び難かったんだよ。

そんなわけで俺とスクアーロ、そしてディーノの三人で即席花見会を催したのである。

つーか、飯とアテ、ついでにちょっとの酒があれば、どこでもいつでも楽しめるんだけどな!




「ザンザスがいないからゆっくり飲めるな」

「クソボスのお守から解放されて清々するゼぇ!」




心底嬉しそうな顔で料理を口に運ぶスクアーロに普段の気苦労が察せてホロリとくる。

お前、苦労してそうだもんな。

ハゲんなよ?

将来が少々不安な頭に俺はそっと手を置いた後、手作りの料理を進めて奴を労わった。

頭皮が刺激されて首を傾げているが、何だかただの慰労会になりつつあるので、俺は頭上の桜を見上げた。




「美しいな」

「そうかぁ?ただの花だろうがぁ」

「お前は枯れてるな」

「あ゙ぁ?」




全く、コイツは心が枯れてるぜ!

お前は目までキテるんじゃないのか?

飲めりゃそれでいいとかほざくスクアーロに小さく首を振って俺は酒で咽喉を潤した。

桜は日本の心で、花見は四季を感じる大事な行事だよ。

桜の美しさはどうやれば日本人じゃないこのアンポンタンに伝わるかねぇ?

俺がそんなかなり失礼なことを考えていると、隣りにいたスクアーロは桜を見上げて繁々と言った。




「これがソメイヨシノかぁ・・・」




それを聞いて俺は思わず噴いた。

酒を噴き出しかけ、左手で顔を覆って笑えば、スクアーロが目を丸くして動揺していた。

いや、お前、何で笑ってるのって顔してるけど、誰だって笑うよ!

俺が肩を揺らして笑っていると、ずっしりと重い物が膝に乗ってきて視線を向ける。




「なーに楽しそうにしてるんだよー、兄さーん」

「おい、ディーノ。お前、どれだけ飲んだんだ?」

「ご覧の通りです」




そそくさとやって来た執事が背後の酒瓶数本を指差し、思わず溜め息を吐いた。

完全に酔っぱらってるな、ウチの弟は・・・。

多分、執事が相手にするの面倒になって潰したんじゃないかと思うのは、俺だけか?

胡坐を掻いた俺の足の上に頭を乗せて、満面の笑みで見上げて来るディーノにもう一度溜め息を吐いてその頭を撫でる。




「スキュアーロと何話してたんだよー」

「ゔぉい!言えてねぇぞ?!」

「・・・ソメイヨシノの話だよ」

「だから!何でそこで笑うんだぁ?!」




だって、ソメイヨシノと言えば、昔のことを思い出すから。

まだ、俺達がチビでイタリアのキャバッローネにいた頃のことを。

ディーノとスクアーロの顔を見て、俺は心が温かくなってニッコリ笑った。




「・・・なぁ、覚えてるか。昔、花見をしたこと」

「あぁ・・・。あの散らない桜のことかぁ」

「覚えてるよ。兄さんとの思い出は全部」




二人が昔、我が家でした花見を覚えていてくれただけで俺は満足だった。

あれは本当に嬉しかったから。













その昔、俺がまだキャバッローネの屋敷にいた頃、まだ俺は幼くて転生して間もないこともあり日本の物に飢えていた。

四季折々の花や和菓子、お茶に琴など、何でもいいから日本の文化に触れたくて仕方なかった。

春になれば無性に桜が見たくて堪らなくなっていた俺は、事あるごとに父さんに桜が見たいとおねだりしていたのだ。

すると、父さんの取引先の人がプレゼントしてくれたとかで、ある春の日に桜の木が家に届いた。

俺はスゲー嬉しくて何やらいろいろ言ったりしたんだけど、まぁその時にソメイヨシノ事件が起こったわけだが、

その話はまた追々。


今考えてみれば納得はいくが、悲しいことにその時、植樹する木に桜の花が咲いておらず、俺は相当落ち込んだ。

一度持ち上げられた分、見れなかった衝撃は大きく、多分当時の俺は見るに耐えない姿だったのだろう。

桜で花見がしたかった俺を慰めようと、ディーノとスクアーロが小さい身体で一生懸命、

木を飾り付けて花見の席を用意してくれたのだ。

俺 の た め に !

やべーだろ?

俺の弟達、めっちゃ可愛いだろ?

とにかくあれはホントに心が癒された良い思い出なのである。




「へぇ。ヘナチョコと苦労人もやるものですね」

「へやちょこ言うな」

そんな美味しそうなこと一言も言ってませんよ

「ゔぉおい!苦労人ってまさか俺のことかぁ?!」

「他に誰がいるんです?」




執事に思い出話を聞かせていると何だか二人が怒り出した。

楽しそうな三人を眺めて、俺はクスクスと笑った。

ふり返った三人がキョトンと目を瞬いて、すぐになぜか顔を赤くして項垂れた。

何で?




「・・・それで?何が面白くて笑ってたんですか?」

「ふふ。コイツらな、昔、俺が欲しがってたソメイヨシノを人だと思ってたんだ」

「あぁ。確かジャッポーネの桜の品種名でしたか」

「あぁ。仲間外れにされたと思ってか、コイツら知らない所で何やってるってすごく怒ってな」

「(それは、多分、嫉妬してだと思いますよ、様・・・)」

「な?!あれはだなぁ!」




何やら執事は呆れていたが、顔を赤くして言い訳する二人が可愛く見えて俺は嬉しくなってずっと笑っていた。

結局、あの時本物の桜を見ることは出来なかったが、ソメイヨシノの真実を知った幼い二人が拙くも

可愛らしい紙の花を懸命に自分より大きな木に付けて俺を喜ばそうとしてくれたことが本当に嬉しくて、

三人でお菓子やらジュースやらを持ち込んでした花見は一生忘れられない思い出である。

・・・まぁ、ディーノ達に対抗して父さんがピンクの電飾を木に付けたのだが、

何だかいかがわしい雰囲気になって部下達に怒られたという後日談もあったりするのだが。

楽しげにしている三人を見て俺はニッコリと笑って、頭上の桜を見上げた。

あー、やっぱ花見って楽しいな!


* ひとやすみ *
・拍手ありがとうございます!
 つまらないお礼ですが、楽しんでもらえたでしょうか?
 今無性に花見がしたい!今年は暖かかったからもう葉桜になりつつありますが。
 ソメイヨシノ事件については皆様の逞しい想像で補って下されば尚楽しめるのではないかと。笑
 これからもちまこら頑張りマスので応援よろしくお願いします!拍手感謝でした!                   (15/04/12)