ドリーム小説

「…指輪、どこやった、俺?」




気がつけば、右手にあった指輪の一つがなくなっていた。

他の指輪はきっちりいつものようにはまっているのに、一番重要なAランクの霧の指輪がなくなっていた。

え、嘘?!

洗面所に流した?!指が細くなってすっぽ抜けた?!

世界に数個あるかないかのAランク相当の物を失くし、俺は一気に血の気が引いた。

あの指輪は俺がまだ二十代の頃から使っていた相棒だったのに。

一体どこで失くしたんだと冷や汗を掻きながら考えていると、部屋をノックする音が聞こえた。




「失礼します、先生」

「・・・あぁ、正一か」




丁寧に頭を下げて入って来た折り目正しい正一に、俺は呆れた。

コイツは本当に昔から変わらないな・・・。

研究ばっかで講義もしない引きこもりの客員教授ごときに、そこまでしなくてもいいのに。

いつも通り「さん」って呼べばいいのに、律儀に大学内では先生ですからと言って聞く耳を持たないのだ。

そう。俺は今、紆余曲折の末、なぜか三十五歳にしてこの大学で教授なんぞやってたりする。

研究室で好きなだけ研究していいよと言われたから来ただけなのに、いつの間にか客員教授になっていた。

生徒の一人も見てないのになぁ・・・。

溜め息を吐いて適当に座れと言えば、正一は散らかった資料を整理して場所を作っていた。

あー・・・そろそろ片付けないと、また執事に怒られる。




「それで、人が寄り付くことのないこの研究室に何の用だ?」

「そろそろだと思いまして」




・・・一体、何の話だ?

ジッと正一を見ていたら、一つ頷いて俺の右手を指差した。

え、何が?何の話?!




「まさかこの時代の指輪をイーピンさん経由で過去に送るとは。先生も考えましたね」

「・・・・・・・?」

「これで高ランクの指輪を確実に保持できる上に、十年前の先生の助けにもなる」




・・・・・・ん、指輪?

イーピン経由で過去に送る?

何の話だと眉根を寄せた瞬間、そう言えば昔、大人イーピンから指輪をもらったことがあったと思い出した。

俺が霧の指輪を不可抗力にも手に入れてしまった時のことだ。

でも、大人イーピン、川平から預かったとか言ってたけど、俺、川平に指輪なんて・・・。



あ。



もしかして、あのラーメンぶちまけ事件の時か?

イーピンがひっくり返したラーメンを右半身に浴びた俺は、あの時手を拭くために確かに指輪を外した。

その時、偶然近くにいた川平が片付けを手伝ってくれたのだが、でも、ちゃんと指輪は填め直して・・・、あれ?

填めたのにないって、まさか!

あの眼鏡、どさくさに紛れて霧属性のこの俺を幻術で填めて盗んだのか?!

前々から忽然と現れて人のラーメン奪っていくムカつく野郎だと思っていたが、さらに胡散臭さが増したぞ!

一体、何者なんだ、アイツ?

膨れっ面をしながら思考に耽っていた俺を、なぜか正一はキラキラした目で見て「さすが先生」とか言ってる。

相変わらずこいつは訳の分からない過大評価をくれる・・・。

俺が訝しげな顔をしていると、珍しいことに研究室の扉がまた叩かれた。




「や、せんせ」

「今日は先客万来だな。どうした、白蘭?」




正一とは違い、ノックの返事も聞かずにひょっこりと顔を出した白蘭はニコニコと笑って

「正ちゃんもいたんだー」と呟いた。

その正一はさっきまでの無邪気な表情を消して、ペコリと先輩である白蘭に頭を下げていた。




「やだなー、正ちゃん。そんな他人行儀な。僕たち同じミルフィオーレ・ファミリーでしょ?」

「同じミルフィオーレと言っても、ボスと部下ですから」

「お固いんだから」

「正一のそれは治らないぞ。俺も相変わらず“先生”だからな」




俺が肩を竦めると白蘭が乾いた笑いを漏らして、散らかった資料の上に遠慮なく座った。

・・・マジで態度って性格出るな。

長居しそうな白蘭に遠慮したのか正一はまた来ますと言って、研究室を出て行った。




「・・・それで、正一を追い出してまで何を話したいんだ?」

「んー別にー」




嘘吐け。

少し前からこいつら二人の関係がおかしくなったのには気付いていたが、

あまり近付かないようにしていた白蘭がわざわざ正一がいるこの部屋に入って来たんだ。

何もないわけがない。




「ねぇ、匣の研究は進んだ?」

「簡単に進むなら、苦労はしない」

「またまたぁ!アニマル型の匣の提唱者が何言ってんだい?」




白蘭の底意地の悪そうな笑顔に俺は顔を引き攣らせて黙り込んだ。

提唱って、別に俺は何もしてやしない。

ただ俺は、俺にだけ懐く、いつも一緒にいれるエコな俺だけのペットが欲しかっただけなんだ。

昔、そんなことを呟いたら突然ヴェルデとかイノチェンティとかが疑似生命体を送ってきて、

白蘭もパラレルワールドで学んだ知識を惜しげもなく俺に教えてきたから、

「こうすれば出来るんじゃね?」と机上の空論をまとめて論文にしてみただけなんだよ。


そしたら、どこでどう捻じ曲がったのか匣は兵器って呼ばれてるし、絶対アニマル型!みたいな話になっていて、

挙句に恭弥は俺が匿名で上げたあの論文に辿りついて俺が匣を開発したと思い込んでいるようだ。

・・・俺はただ、一人ひとりの研究を生かそうとまとめただけなのに、

俺が造ったとか思われたら研究者たちに申し訳が立たない。

なのに恭弥は俺に根掘り葉掘り聞いてくるし、面倒だから「偶然の賜物だ」としか言わなかったら、

匣の研究にのめり込むようになって、元風紀委員会と俺の組織を統合させて風紀財団とか造ってあちこち飛び回ってる。





にもらったレジェンド型の僕の匣も強くなってるよ。白龍になったんだ。の研究は面白いよねー。

 個人の炎の質によって生まれる兵器が変わるなんて。しかも僕と君二人だけの特注品だもんねぇ」




ふふふと笑う白蘭に俺は顔を引き攣らせた。

白龍?!お前の匣、龍になったのかよ?!

羨ましすぎる進化に俺は唖然とした。


確かに俺は独自の研究で、個人に合ったアニマルが生まれる匣研究に没頭していた。

それはもう鬼気迫る勢いで・・・!!

なぜなら、ヴェルデ達が作ってくれた量産型の愛らしいアニマル匣は、なぜか俺が開匣すると怯えて気絶するのだ。

ウサギの匣がショック死してしまった時は、マジで絶望しかなかった。

このままでは俺のペットセラピー計画がとん挫する・・・!!

だから俺は、俺の炎から生まれた奴なら大丈夫じゃね?と、需要もない研究を何年もやってきた。

白蘭には知識を分けてもらった恩があるし、試作のあの匣をあげたのだ。

そしたら、龍が出た。

理論上、伝説の生き物が出てもおかしくはないが、まさか本当にレジェンド型になるとは・・・。

俺はこっそり卵型と名付けていたが、嬉々として白蘭がレジェンド型と連呼するからいつの間にかその名が通ってた。

てか、龍だぜ?!龍!!カッコよすぎんだろ!!




「白龍もそれなりになって来たから、のと戦わせようよ!君の匣は何になったんだい?」

「教えるつもりはない。それに俺はアイツを戦いに出さないぞ。危険すぎる」

「へぇ」




うっそりと目を細めた白蘭はとても諦めたようには見えなかったが、何と言われようと戦いなんてダメだ。

というか、お前の匣が龍になったと知った今、絶対に出せなくなった。

勝負にならなさすぎる・・・!


確かに俺の炎から生まれたアイツは俺に怯えることなく、懐いてくれるから、可愛い。

・・・可愛いが、納得がいかない。

光を跳ね返すほどの美しい純白の翼、宝石のように煌めく金の瞳、スラリと長い足に、風に靡く透明感ある尾羽、

そして、何より象徴的なのは、凛々しい冠のような紅のトサカ。


なぜ、よりによってニワトリになった・・・・・?!


可愛いが、性格も俺にそっくりでヘタレな上に使えねぇ・・・。

テメェみたいなビビりはチキンがお似合いだろってことか、神様・・・!!

使える技も、鳴く、つつく、千鳥足、という使えない仕様。

カッコ悪すぎてとてもじゃないが、龍の前になんぞ出せん!!

眉間に皺を寄せる俺に、白蘭はいつか見てみたいなと楽しそうに言って立ち上がった。




「まぁ、そろそろ引っ越しの準備しといてよ、せんせ」

「・・・お前に先生とか言われると妙な気分だな。まぁ、ボスの命令なら仕方ない」

「やだなぁ。は僕の部下じゃないでしょ?」

「ホワイト・スペル第0パフィオペディラム部隊の俺を部下じゃないというのはお前だけだよ」

「いいんだよ、がミルフィオーレにいることを知ってるのは僕だけなんだから」




この笑顔の下に全てを隠してしまう不安定なガキんちょについて行こうと決めたのは気まぐれだったのだが、

幻想を食べて生きているようなフワフワしてるコイツは見ておかないと何かヤバい気がするのだ。

地に足着かない雰囲気の白蘭に俺は溜め息を吐いた。




「あまり無茶はするなよ。早死にするぞ」

「ふーん。珍しいね。が僕に助言するなんて。君は僕を助けもしなければ、邪魔もしないと思ってたんだけどな」

「しないさ。ただ、生徒が早死にするのは目覚めが悪い」

「はは!せんせのそういうとこが、好きなんだよなぁ」




不吉な話をしているというのに、ニコニコと笑みを深める白蘭。

コイツの考えてることはホント分からん!




「ゲームが始まるよ、せんせ。楽しくなるといいね」




頬を紅潮させてそう言った白蘭に思わず目を瞬かせた。

何だか珍しいものを見たな。

この時の俺はまさかそのゲームとやらが、あんな大惨事を引き起こすとは思ってもいなかった。

ボンゴレと敵対した俺は、またもやいらぬ苦労をすることになるのだった。


* ひとやすみ *
・リクエストのいいとこ取りをしたらこんなグダグダな話に・・・。笑
 連載中から実は未来編の兄様については設定をいろいろ考えていたので、すんなり楽しく
 書かせてもらいました。未回収の伏線をいくつかこっそり回収してみました。
 今回は93話の裏話的未来編ということで書きましたが、いかがだったでしょうか?
 今日に間に合わせるために慌てて上げたので、変な所だらけだと思いますが許して下さいね?笑
 実は容量がいつもの倍の二話分くらいありますが、途中で切るのも嫌だったのでそのままです。
 べ、別に、二話上げるのが面倒だったとかじゃないんだからね・・・!!(え
 そしてまさかのニワトリっていうね!楽しかったのでまたその内、十年後話上げるかもしれません。笑
 突っ込み所満載な話だった話でしたが、楽しんでいただけたら幸い!お目通し感謝です!!          (12/11/05)